*「紛争の被害者を平和構築の担い手に」JCCPはアフリカ・中東の平和構築を支援する認定NPO法人です。 

日本プロセス様からのご支援(2013年)

手話訓練1.png


日本プロセス様からご寄付を頂きました。JCCPは、現在ケニアで行っているコミュニティ平和構築事業の一環として、手話訓練事業を行いました。
日本プロセス様からのご支援に感謝を申し上げます。



手話研修を実施した背景

JCCPは2008年以来、ケニアの貧民街「マザレ地区」で活動しています。マザレ地区は、大統領選挙後の暴動(2007~2008年)により大きな被害を受けた地区の一つで、ケニアに存在する42の部族がすべて混在しているという複雑なコミュニティです。

現在、JCCPはマザレ地区でのコミュニティ平和構築事業に取り組んでいます。当事業は、住民自らが紛争を予防・管理できるようになるため、コミュニティ・レベルの紛争予防メカニズムの強化に焦点をあてています。具体的には、長老や女性を含む現地人材の能力強化や、地元の若者と警察の信頼醸成、そして、子どもをふくむ社会的弱者への心理社会的支援、環境保護活動をとおした民族共存の取り組みや啓発などを行っています。

現地における活動の中で、紛争や暴力の被害を受けていてカウンセリングが必要なものの、現地カウンセラーと円滑に意思疎通が出来ない聴覚障碍児が存在することがわかってきました。自分の母親をはじめ周囲の誰ともうまくコミュニケーションが取れない聴覚障碍児たちをどのように支援していくか、JCCPにとっても大きな課題でした。

JCCPは独自のネットワークを通じて聴覚障碍児専門の教育施設を紹介するだけでなく、聴覚障碍児の家族や現地カウンセラーに手話を学ばせることで、より効果的な支援ができると考え、今回の手話研修を企画・実施しました。

手話研修の目標

手話研修の目標は、聴覚障碍児の家族や現地カウンセラーに基本的な手話を習得させることで、聴覚障碍児との意思疎通を円滑にし、より効果的な支援を可能にすることです。

この研修を実施することにより、物理的暴力や性的虐待、ネグレクトなどの暴力にさらされている聴覚障碍児を保護する能力を、家庭とコミュニティの双方で向上させることができます。聴覚障碍児の一番身近にいる両親やの現地カウンセラーが、聴覚障碍者のさまざまなニーズを直接汲み取ることができるようになれば、支援の質も量も改善されます。

手話研修の成果

選抜された20名の男女がのべ10日間、合計80時間の集中研修に参加し、基礎レベルの手話を習得しました。研修参加者は、聴覚障碍児の親8名と現地カウンセラー12名です。手話研修の技術面を監修した現地団体Deaf empowerment Kenya(以下、DEK)によると、研修参加者20名は、研修後に聴覚障碍児らと手話で、平均80%程度は意思疎通ができるようになりました。今回の研修で手話を取得した12名の現地カウンセラーは、マザレ地区における聴覚障碍児への支援にとって欠かせない重要な人材へと成長しました。

JCCPが実施した事前調査では、聴覚障碍児の両親は、自分の子供が何を欲しているのか理解できず苦しんでいました。一方で聴覚障碍児たちは、自分が理解されないことに苛立ち、攻撃的になることもありました。ある聴覚障碍児が病気になった際に両親にそれを伝えられずに症状に苦しみ、両親はあとになってそれを知ってずいぶん悔やんだといいます。手話訓練2.png

研修後の調査では、家族内のコミュニケーションが著しく改善したことが判明しました。両親の多くは自分の子供と手話で会話ができるようになったことを喜びました。聴覚障碍児2人は専門の学校で手話を学んでいたのですが、ある日両親が自分たちと同じ言語、つまり手話で会話できるようになったことに気付いて、喜びを隠し切れなかったといいます。

右写真)手話研修をうける現地カウンセラーと家族たち


今後について

手話研修を受けた家族や現地カウンセラー20名は、次のステップに進みます。例えば、手話をより完全なものにするためにほかの聴覚障碍者と交流を深めたり、聴覚障碍者の人権や支援ニーズを近隣の住民や現地政府に訴えていく役割を担います。

今回の事業について、アフリカにおける障碍と開発を研究していらっしゃる、アジア経済研究所の森壮也・主任調査研究員兼教授からも、コメントを頂きました。その中には、「両親への手話教育は困難であるが、子供の健やかな成長にとっては、とても重要であるということ」また、「ケニアでは、学校の教師も、実は十分に手話が使えないというケースも散見されること」そして、「一般に行われている手話研修はクオリティに差があるので、専門家の指導や監督を確保することが重要である」というものがあり、改めて今回のマザレ地区での手話訓練の重要性を認識することが出来ました。

今後は、研修を実施したスラムに基盤を持つ現地団体(DEK)との連携を深めながら、持続可能なリファラル体制をスラム内で確保していきたいと考えています。

この度は、貴社の温かいご支援のおかげで、紛争や暴力のリスクにさらされている聴覚障碍児を支援するために、最も望まれていた家族や現地カウンセラーへの手話研修の支援を届けることができました。改めて、日本プロセス様のご厚意に深く感謝申し上げます。



成功事例①

サラとステファン:聴覚障碍と心理ストレスを乗り越えて – ともに手話を学ぶ母子


手話訓練3.pngマザレ・スラムに住むサラは、JCCPの現地カウンセラーから継続的にカウンセリングを受けています。彼女には、5歳になる聴覚障碍の息子ステファンがいて、常にストレスのたまる生活をしているそうです。

「ステファンは耳が聞こえません。息子が2歳になる頃、普通に話が出来ないことがわかり、家族や友人は『魔術をかけられているのではないか』と言ったり、『伝統医療を受けさせたらどうか』と言いました。それは私にとって、とても苦痛でした。私と夫は、自分たちの子供が聴覚障碍を持っていて、それに対して私たちが何も出来ないということを認めたうえで、その辛い現実を乗り越えていかなければいけなかったからです。」

左写真)手話研修を受けた現地カウンセラーと母親

「私の問題は、息子のステファンとコミュニケーションをとることが出来ないということです。私は彼が何を考えているのか、今何が欲しいのかを理解することが出来ません。なぜ息子が癇癪を持ったりするのかも理解できず、それが大きなストレスになっていました。」

「ステファンが大人になったときにどのような生活を送るのか、私や夫に頼らずに生きていくことが出来るのか、他の子供たちのように通常の学校に行かないでどんな人生を送ることになるのか、を心配しています。ステファンをいったいどの学校に通わせればいいのでしょうか。その学校は高い授業料を払わなければいけないのでしょうか。自分が何をしなければいけないのかすらわかりません。誰か教えてくれる人はいるのでしょうか。」

今回の手話研修に技術協力した現地団体DEKのネットワークを通じて、JCCPの現地カウンセラーが、サラの息子ステファンを聴覚障碍者のための学校に紹介しました。ステファンは聴覚障碍者のための専門教育を受け、学校で修得した手話を日々の生活で使うことが出来るようになりました。

今回の手話研修に出席したサラは、手話の基礎を覚えることができたことを喜び、手話の習得が自分よりも早い息子のステファンと共に毎日練習しながら、手話の技術を磨いているとのことです。

手話研修は、JCCPが実施するコミュニティ平和構築事業の成功事例の一つとして、マザレ地区でひろく認識されるようになりました。

成功事例②

フローレンスとブライアン:最高の贈り物 - 母と子をつなぐ手話

現在8歳のブライアンは、聴覚障碍を持って生まれました。彼は完全な聴覚障碍者であると診断されていますが、献身的に愛してくれるフローレンスという母親がそばにいます。

フローレンスは、すでに別の場所で手話の授業を受講していましたが、手話の講師はなかなか来ず、月に一度のクラスに参加するのがせいぜいでした。

「私は周囲の人々の接し方に対して疑問を持っています。彼らは、息子は耳が聞こえないだけであって、みんなと同じ普通の人間であることを理解していないんです。彼らは息子を疎外し、自分の子供たちと一緒に遊ばせようとしません。」フローレンスは憤っていました。ブライアンは、聴覚障障碍を持ったほかの子供たちと交流できる場を設けている学校に通っています。ブライアンは学校で手話を学んでいるので、手話を自由に使えます。

手話訓練4.png続けてフローレンスは「私は、息子ともっと円滑に意思疎通できるようになるためであれば何でもします。息子はとても素晴らしい子で、学校でも良く出来た子です。もし手話を学ぶことが出来れば、息子が私に話すこと全て理解することが出来るし、私たちの生活はもっと簡単になるでしょう。」と、今回の手話研修への期待を膨らませていました。

10日間の手話研修を終えたフローレンスは、「これほどまでに多くのことを学ぶことが出来るとは思っていなかったので、今はとても幸せです。手話研修は毎日がとても楽しみでした。私はこれからも手話を学び続けたいです。この手話研修は、私と息子にとって最高の贈り物でした。私たちはこの手話研修によってお互いにより近づけたと思います。ブライアンは、私が彼の言おうとしていることが理解できると、とても喜びます。」と、母親としての喜びを語ってくれました。

右写真)聴覚障碍を持ったブライアンと母親のフローレンス


フローレンスは、聴覚障碍を持った子供の両親に、子供を学校に行かせること、また自分たち自身も手話研修を受けることを強く勧めたい、と話しました。